網膜色素変性症とは遺伝性の病気で、ゆっくりと進行する視力低下を生ずる疾患です。眼の中に入った光は、眼底の網膜で焦点を結び、その情報が脳へ送られて視覚が成立します。網膜は「視細胞」という、光を感知する細胞が集まって構成されていますが、網膜色素変性症はこの視細胞が、年齢よりも早く老化し機能しなくなってしまう両眼性の病気です。視細胞が働かなくなった部分は光を感じとれず、映像になりません。
ふつう最初に現れる症状は、夜や薄暗い屋内でものが見えにくくなる「夜盲(やもう)」です。その後、「視野狭窄」が少しずつ進行し、見える範囲が周辺部分から中心に向かい狭くなっていきます。
■症状の進行と原因
症状の進行はとても遅く、検査をしても1年単位の間隔では通常、症状の悪化を確かめることはできません。5年ぐらい経過して、ようやく視野狭窄の進行が少し確認されるくらいです。
視野が中心部10度ぐらいまでに狭くなったあとの視野狭窄の進行は、さらにゆっくりしています。しかし、この10度以内の視野も何十年かの経過で障害されてくると、視力が低下してきて、ついには光を失うこともあります。
人によって進行には差があり、幼少時にすでに発病している重症の場合30代、40代のうちに光を失ってしまうこともありますが、80歳になっても実用的な視力を保っている人もいます。
この病気の発病頻度は、人口 3,000〜8,000人に1人の割合で、ほとんどが遺伝による発病です。
近親者にこの病気の人がなく、一見遺伝ではなく突然発病したように思われることもあります。また、それとは逆に親がこの病気だからといって、その子どもが必ず発病するわけでもありません。遺伝子が引き継がれることと発病することは、同じではないのです。ただ、いとこ同士など近親者間の結婚では、発病の確率が高くなります。
■網膜色素変性症の治療
この病気は遺伝子が関係しているので、今のところ根本的な治療法はありません。“病気の進行を遅らせること”が治療目的となります。
まず強い光を避けることで、病気の進行を遅らせることが期待できます。視細胞をいたわるため、屋外では普段からサングラスをかけるようにしましょう。また、この病気では光をまぶしく感じることが多いので、それを防ぐ意味もあります。(サングラスの選択についてもご相談ください。)
また、現在処方される薬はいくつかありますが、これらの薬が病気の進行を確実に遅らせているという証拠は、今のところ得られていません。
網膜色素変性症の患者さんは、白内障や緑内障を併発しやすいことが知られていますが、いずれの病気も有力な治療手段がありますので、もしこれらの病気が視力低下や視野狭窄に影響している場合、その治療により症状の改善・進行防止を期待できます。
■今回のアドバイス
長時間の屋外活動は、網膜に強い光が当たり、病気の進行を早める可能性があります。眼を守るためには、可能ならば屋内労働中心の職業を選択したり、学齢期であれば部活動は屋内でできるものを選ぶなどの工夫をしてください。ただし、症状の軽い若いうちから進路選択の幅を狭める必要は全くありません。なぜなら、たとえ将来重度の視覚障害に至るとしても、それまでの長い年月は、ほとんど他の人と変わらない生活を送れるからです。
治療の経済的な負担については、網膜色素変性症が特定疾患に指定されていることから、病状により医療費が軽減される場合があります。
※網膜色素変性症は、特定疾患治療研究の対象疾患で、医療費自己負担額の給付制度があります。
(給付の認定などは自治体によって異なる場合もあります)
この病は、家庭医学書などでは、「徐々に視野が狭くなり、視力を失うこともある遺伝性の病気で、治療法は確立されていない」と解説されることが多いようです。確かにそれで間違いないのですが、「視力を失うこともある」という言葉から、発病した以上、光を失うことは免れないと思い込んでしまう人も少なくないようです。そうした思い込みによる必要以上の不安を招かないためには、なによりもまず病気を正しく理解することが大切です。
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